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KV重戦車のフェンダーについて(4)現存車両のフェンダー

▪️ 現存するKV重戦車のうちオリジナル度が高いと思われる幾つかの個体について、車両の来歴及び車体フェンダーについて判明&推定されるところをまとめた。
ただし実際に現地を訪ねて確認した訳ではなく、資料本やweb上の記事・画像からの推定判断なので、これも参考程度にしてもらえればと思う。なお各博物館の名称には俗称を含む。


◎ 【ソミュール戦車博物館(フランス):F-32 搭載型】

・LKZにて 1941年8月〜9月に製造された車両とされる。
・東部戦線でドイツ軍に鹵獲された後、ロシア国民解放軍(RONA)に鹵獲配備された。その後 1944年にフランスに送られ、連合軍によって捕獲された。
・フェンダーは一見オリジナルに近い印象だが、外側のL字材が上下逆に付いているなど生産当初の仕様とは異なる部分が見られ、オリジナルでは無いか、仮にオリジナルだとしても相当手が入っていると思われる。なお現在の展示はディオラマ仕立てでディテール鑑賞はしづらい。
http://legion-afv.narod.ru/KV-1_Saumur.html


◎ 【パロラ戦車博物館(フィンランド): F-32 搭載型・砲塔及び車体に増加装甲をボルト留めしたタイプ(所謂エクラナミ型)】

・LKZにて1941年6月に製造。車体シリアルNo. 4785。
・1941年9月、カレリア、ペトロザヴォーツク北方にて技術的トラブルにより放棄。フィンランド軍によって捕獲され、修理の後に鹵獲運用された。
・フェンダーはフィンランド軍によってまるまる作り直されたものでオリジナルでは無い。
http://legion-afv.narod.ru/KV-1_Parola_1.html


◎ 【パロラ戦車博物館(フィンランド): ZiS-5 搭載の鋳造製砲塔型】

・ChKZにて1942年3月に製造。車体シリアルNo. 10260。車体最後部上面が角形のタイプ。
・1942年4月、レニングラード北東での戦闘に於いてフィンランド軍によって捕獲され、修理の後に鹵獲運用された。
・フェンダーはフィンランド軍によってまるまる作り直されたものでオリジナルでは無い。なお、鹵獲前のオリジナルフェンダーはリベット留めであったようだ。
http://legion-afv.narod.ru/KV-1_Parola_2.html


◎ 【アバディーン戦車博物館(米国): ZiS-5 搭載の鋳造製砲塔型】

・ChKZにて1942年8月に製造。車体シリアルNo. 11302。UZTM製の鋳造砲塔に、車体最後部上面がラウンドしたタイプ。
・米ソの相互協定によりソ連から試験・評価用として送られ、アバディーン試験場にて各種試験が行われた。 2010年までアバディーンに展示されていたが、その後バージニア州フォートリーに移動。
フェンダーは貴重なオリジナルで、リベット留め仕様である。
http://www.primeportal.net/tanks/dmitry_kiyatkin/kv-1/


◎ 【ボービントン戦車博物館(英国): ZiS-5 搭載の鋳造製砲塔型】

・ChKZにて1942年8月に製造。車体シリアルNo. 11306で、アバディーンの車両とは4番違い。UZTM製の鋳造製砲塔に、車体後部はラウンドしたタイプ。
・英ソの相互協定によりソ連から試験・評価用として送られた。英国への到着は1943年6月で、その後に各種試験が行われた。戦後から現在までボービントン戦車博物館にて展示されている。
フェンダーは貴重なオリジナルで、リベット留め仕様である。
http://svsm.org/gallery/KV-1


◎ 【レニングラード州・ロプシャ村 記念碑展示車両(ロシア):ZiS-5 搭載・90mm装甲厚の簡易生産型砲塔】

・キーロフスキー工場製ではなく、レニングラード包囲下の1943年に「第371工場(スターリン名称・レニングラード金属工場)」によって製造された約70両の内の1両とされている。1943年春の製造。車体シリアルNo. S-054。
展示に当たって補修もされているが、フェンダーはオリジナルと思われ、溶接留め仕様であった。が、2020年現在この車両はフェンダーを新造のものに交換されてしまっており、貴重なオリジナルのフェンダーは失われてしまっている。
http://legion-afv.narod.ru/KV-1_Ropsha.html

余談。通常のKV用履帯は「鍛造(プレス)製」とされている(!)が、この車両が装着しているタイプの履帯は「鋳造製」と思われ、履帯左右のフランジ部分には鋳造記号も認められる。また恐らく冬季の防滑効果を期待してのものだろうが、履帯10枚置き位に踏面が凸になっているリンクが含まれている。これも鍛造での成形は困難と思われることから、鋳造ならではのバリエーションであろう。
※ 踏面が凸になっているリンク。
http://legion-afv.narod.ru/USSR/Heavy_USSR/KV-1_Ropsha/KV-1_Ropsha_237.JPG
※ 鍛造製リンクも混用されている。上が一般的な鍛造製で、中央が鋳造製。
http://legion-afv.narod.ru/USSR/Heavy_USSR/KV-1_Ropsha/KV-1_Ropsha_684.JPG


◎ 【モスクワ・中央軍事博物館 展示車両(ロシア):ZiS-5 搭載・溶接砲塔型】

・ChKZにて1941年12月に製造。車体シリアルNo. 43666。
・1942年5月〜6月のハリコフ近郊での戦闘に参加、損傷し修理のために工場に送られた。レニングラードレーニン赤旗高等官装甲機械化訓練学校(LKBTKUKS)所属車となり、レニングラード封鎖前にウラル地方のマグニトゴルスクへ疎開、その後は操縦訓練等に使用された。戦後、中央軍事博物館に到着。
・車両の来歴から、フェンダーはオリジナルでは無い可能性が高いと思われる。
http://svsm.org/gallery/kv-1


◎ 【モスクワ・中央軍事博物館 展示車両(ロシア):KV-2・後期型(MT-2砲塔)】

・LKZにて1941年6月に製造。車体シリアルNo. B-4744。KV-2としては最後期の生産車。
・1941年6月ヴェリーキエ・ルーキ方面で戦闘に参加、損傷し修理のために工場に送られた。レニングラードレーニン赤旗高等官装甲機械化訓練学校(LKBTKUKS)所属車となり、レニングラード封鎖前にウラル地方のマグニトゴルスクへ疎開、その後は操縦訓練等に使用された。戦後、中央軍事博物館に到着。
・車両の来歴から、フェンダーはオリジナルでは無い可能性が高いと思われる。
http://svsm.org/gallery/kv-2

余談。中央軍事博物館の2両のKV(KV-1,KV-2)は複数の種類の転輪を混用装着しているが、これは戦後の処置では無くマグニトゴルスク時代に改修された可能性が高いそうだ。KV-1の方には「リブ付きの緩衝ゴム内蔵型転輪」も含まれているが、これに関しては元はKV-2のものだった可能性も示唆されている。もしそうならば、KV-2の最後期の生産車は「リブ付きの緩衝ゴム内蔵型転輪」を装着していたことになるが、1941年6月製造という時期的にもその可能性はある。
また、砲塔に当初の生産時には無い鉤型の吊り上げラグが付いているが、これも同様に「マグニトゴルスク仕様」とされる。…とすると、中央軍事博物館のKVに見られる、エンジンハッチ左右の吸気部カバーに付く「縦方向の補強バー」もまたマグニトゴルスクでの仕様なのかもしれない。


◎ 【サンクトペテルブルク・地下鉄アフトヴォ駅 記念碑展示車両(ロシア):KV-85(Obiekt 239)】

・1943年8月に製造されたKV-85最初のプロトタイプ(Obiekt 239)。KV-1Sの試作第2号車(1942年7月製・車体シリアルNo.15002)の車台を改造し、85mm D-5Tを装備したIS-85(Obiekt 237)の砲塔を搭載している。
・記念碑は「レニングラード防衛開始10周年」を記念して計画され、LKZに保管されていた当車両が供出された。1951年9月、KV-85はLKZの門を出て記念碑の場所まで自走し、更に台座の上まで登った後に、燃料を排出し台座に固定された。展示期間中に、元々は付いていなかった「KV-1用の車体機銃」が装着された。KV-85オリジナルの「固定式前方機銃」は記念碑設立の時点で既に撤去され、穴も塞がれていたようだ。
・フェンダーに関しては、記念碑設立の時点で既にオリジナルとは異なっており、またその後の展示期間中にも改修されたと思われる。
http://legion-afv.narod.ru/KV-85.html

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参考文献:
『クリム・ヴォロシーロフ:レニングラードでの製造 1940-1941』(マクシム・コロミエーツ 著:フロントヴァヤ・イリュストラツィヤ 01/2009)
『重戦車KV-2:スターリンの「無敵」の巨像』(マクシム・コロミエーツ 著:ヤウザ 刊 2011)
『近代化された「クリム・ヴォロシーロフ」戦車・KV-1S & KV-85』(マクシム・コロミエーツ 著:エクスモ 刊 2014)
『ソビエト重戦車KV-1:勝利の最初の戦車』(マクシム・コロミエーツ 著:エクスモ 刊 2017)
『КВ-1』(Wikipedia ロシア版)https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9A%D0%92-1
『КВ-1с』(Wikipedia ロシア版)https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9A%D0%92-1%D1%81
『КВ-85』(Wikipedia ロシア版)https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9A%D0%92-85
 Surviving KV series(pdf)http://the.shadock.free.fr/Surviving_KV_series.pdf
 及びインターネット検索による。

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