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KV重戦車の誘導輪について

個人的に、キットに対する詳細な考証的検証は実際に製作を開始する段階まで行わないのが常なので、タミヤの新KV-1もビニール越しにパーツを眺めて箱を閉じてたんですが、「これコレこれに関してお前はどう思うんだよ」と意見を求められたりもしたので、軽く書いてみます。
ただちょっとHDトラブルが続いており、ここ3年ほどの資料データ類にアクセス出来ていないので、あくまで軽く、分かる範囲で。

▪️ タミヤ・新KV-1の誘導輪

タミヤの新製品【MM372;ソビエト重戦車 KV-1 1941年型 初期生産車】に付属する誘導輪パーツは、先行する「トランペッター」や「イースタンエクスプレス(EEC)」製KVキットの誘導輪に比べて、径がやや小さいのだそう。パーツを実測したところでは約18mmで、35倍した実車換算では「630mm」ということになる。

通常型(と便宜的に呼称)の誘導輪径は680mmと承知しており、これはロシアの模型系掲示板で得た情報だったかな(うろ覚え)。
文献的には『近代化された「クリム・ヴォロシーロフ」戦車・KV-1S & KV-85』(マクシム・コロミエーツ 著:エクスモ 刊 2014)にも「680mm」との記載がある。
一方『KV Technical History & Variants』(Neil Stokes 著:AirConnection 刊 2010)では誘導輪径を「700mm」としている。
いずれにせよ、タミヤの誘導輪パーツはこれらの数値に比すと小さい。

これに関して、現存実車の誘導輪にメジャーを当てたロシアサイト経由の画像がSNS上で示され、同時に実は径の小さい誘導輪も存在したという新たな説が呈示される…という展開になっている。

KVの誘導輪に径の異なるタイプが存在したということは、私は把握していなかったのだが、IS重戦車の例などを鑑みるに、有り得べき話だとは思う。
ただ、その実例として挙げられた「現存実車の誘導輪にメジャーを当てたロシアサイト経由の画像」については、私これ、径が小さいようには見えないんですよね…。
そこで、当該誘導輪は本当に径が小さいのか?メジャーが示す数値は何ミリなのか?について検証してみたい。

▪️ 検証画像出典

検証には下記二箇所の画像を使用した。素晴らしい写真に感謝。

https://modelizm.forum2x2.ru/t414-topic

http://legion-afv.narod.ru/KV-1_Kirovsk_2.html

画像はトリミングを行わずに使用したが、掲載の都合でサイズを横800ピクセルに統一した。
オリジナル画像については上記リンクが出処だが、本ブログに提示した画像には検証の為に最小限の書き込みを行っている。

▪️ 展示車両について

展示車両は2007年10月にサンクトペテルブルクのネヴァ川から引き揚げられ、レストアの後、2009年1月から同地の「レニングラード封鎖突破」博物館に屋外展示されている。レニングラード・キーロフスキー工場製の1941年9月〜10月生産車とされ、F-32装備の生産簡易型砲塔を搭載。
引き揚げ時、車両はほぼ完全な状態で、転輪,起動輪,誘導輪,履帯といった足回りは基本的にオリジナルのままである(ダンパー類等、展示用に一部加工された部品もある)。一方、フェンダー等は新造の物に交換されている。
全体形はよく保っているが、ネヴァ川の河口に近い場所に長期間沈んでいた為に車両表面の腐食はやや進行しており、それにより各部パーツの表面には細かい凸凹が生じている。

▪️ 検証

1)まず、画像集から左舷側誘導輪の写っているものをピックアップする。

2)複数の画像を見比べながら、ハブカバーのドームの頂点(中心)位置を選定し、そのポイントに赤丸()を置く。
その際、腐食によって生じたハブカバー表面の微細な凸凹を目印に、画像それぞれのポイント位置間に矛盾が生じないよう調整する(以下画像4点)。

Kv1_kirovsk_2_114_20200703002201

Kv1_kirovsk_idler_2_20200703002201

Kv1_kirovsk_idler_3_20200703002201

Kv1_kirovsk_idler_4_20200703002201

 

3)メジャーを当てた写真にも頂点(中心)位置に赤丸()を置く。その際、先にポイントを印した画像を拡大して参照した(以下画像2点)。

Kv1_kirovsk_idler_5

Kv1_kirovsk_idler_6

 

4)メジャーの数字を読む。数値は画像二つとも大凡「347mm」を示した。

Kv1_kirovsk_idler_7_20200703002201

Kv1_kirovsk_idler_8_20200703002201

 

5)メジャーは誘導輪外周エッジからハブカバー頂点に渡されているので斜面になっている(b)。ハブカバーの白く残った部分の高さ(h)が判れば、三平方の定理(ピタゴラスの定理)により底辺である誘導輪半径(a)が導き出せるが、ハブカバーの実測数値の情報は所有していない。

Kv1_kirovsk_idler_9_20200703002201

 

6)そこでマニュアル記載の誘導輪断面図から高さを割り出す。
誘導輪断面図(KV-3・Obiekt 223のもので KV-1と同形)に直角三角形を当て嵌め、斜面(b)を「347mm」とし、比例計算で高さ(h)を求めた。結果、高さ(h)は暫定的に「68.4mm」となった。

Kv_idler_20200703002201

 

▪️ 画像から割り出された誘導輪直径

上記にて求められた、斜面(b)の数値を「347mm」,ハブカバーの高さ(h)を「68.4mm」として計算すると、誘導輪半径(a)は「340.19...mm」という数値を得られた。

以上により「現存実車の誘導輪にメジャーを当てたロシアサイト経由の画像」から求められるべき誘導輪直径は、大凡「680mmという結果になった。これはつまり通常型誘導輪の直径と合致する。

▪️ 結び

上記検証に用いた数値の厳密性については、元より確としたものでは無い。メジャーの当て方でも誤差が生じているだろうし、ハブカバーの高さの求め方もやや乱暴だ。
しかしながらそれでも、当該画像の誘導輪を「小径誘導輪」と判定することは困難であると思われる。

更に言うならば、そもそも今回「小径誘導輪」と称されている物については、その具体的な直径やディテール等の詳細が明らかになっておらず、タミヤキットの誘導輪がその「小径誘導輪」に該当するかどうかを議論すること自体、無理があるのではないだろうか。

なお、私は別に「小径誘導輪は存在しない」と主張している訳ではないので念のため。「現存実車の誘導輪にメジャーを当てたロシアサイト経由の画像」は通常型の誘導輪だと思うし、タミヤキット付属の誘導輪が小さい理由は依然として明らかになっていないということを確認したまで…とご承知おき下さい。

検証内容や計算方法に誤りがありましたら、ご教授いただければ幸いです。

 

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