“将軍の” T-34:RSB-F無線機搭載・T-34指揮戦車(1)
前回話題にした「パンター転輪をフル装備したT-34-85」車両には、戦闘室左側面の中央付近、ちょうど第3転輪の上あたりに、車体後面に付くのと同じ「排気管の装甲カバー」が斜めに取付けられているのが確認出来る。
T-34の写真を見ていると極まれに同様の車両を目にすることがあるが、これは「RSB-F無線機を搭載した、指揮官用のT-34」に固有の特徴…とされている。
「RSB(РСБ = радиостанция самолета-бомбардировщика:航空爆撃機無線局)」は1936年に採用されたソ連の航空機用短波無線局(無線機システム)で、ツポレフ SB,ペトリャコーフ Pe-2・Pe-8,イリューシン4 等の爆撃機に搭載された。
その地上運用型が「RSB-F(РСБ-Ф)」で、「F」は「有蓋トラック」を意味するロシア語の頭文字。その名の通り、GAZ-AAAのバンタイプをベースにした専用車両等に搭載して運用された。総重量450kgを超える大掛かりな無線機システムで、その運用は運転手を含む6名のチームによって行われたという。(※ 画像はZebranoから出ている「1/72 GAZ-AAA・RSB-F搭載車」)
この無線局をT-34内部に搭載したのが【RSB-F無線機搭載・T-34指揮戦車】である。
【RSB-F無線機搭載・T-34指揮戦車】は、軍団や連隊本部等に配備され、地上部隊と空軍との無線連携のもと運用された。
兵士からは【"Генеральские(ゲネラーリスキエ = 将軍の)" T-34】と呼ばれたそうで、まぁ実際に「将軍」階級の人物は搭乗しないのではないかと思うが、 上級司令官が搭乗・指揮するという事で、一般のT-34と区別するための呼称だったのかもしれない。
車内レイアウト等の詳細は不明だが、無線機システムのスペースを確保する為、搭載弾薬数は通常よりも大幅に減らされていたと思われる。
また、RSB-F無線機の運用には大量の電力が必要であり、バッテリーへの電源供給の為にガソリンエンジン式発電機が内装された。発電機の稼働によって生じる排気ガスは、戦闘室左側面に新たに孔を穿ち、そこから排気管を出して排出された。
排気管の保護の為に「装甲カバー」が装着されたが、これには車体後面に付くのと同じものが流用され、これが【RSB-F無線機搭載・T-34指揮戦車】を見分ける際のポイントとなっている。
なお、装甲カバーの装着はボルトによらず、フランジ部分を車体に直接溶接しているようだ。
(※ 画像はマニュアルから、RSB-Fの戸外での使用法。右手の橇に載っているのがRSB-F無線機システムで、少し離れた左の三角屋根の下にあるのが電源供給の為の発電機。発電機がかなり大きいのが判る)
【RSB-F無線機搭載・T-34指揮戦車】の製造は主に第112工場(クラスナエ・ ソルモヴォ)が担当したが、第112工場以外は何処の工場が担当したのかはちょっと不明。
1942年から1945年6月1日までの間の生産数は…
T-34-76 ベース:195両(内、第112工場生産分:140両)
T-34-85 ベース:274両(内、第112工場生産分:D5-T搭載車 5両,ZiS-S-53搭載車 191両)
…とされている。
<続く…>
◎ 参考資料
『未知のT-34』: エクスプリント刊, 2001.
『国内の装甲車両・20世紀 第2巻 1941-1945』: エクスプリント刊, 2005.
『T-34:最初の完全なる百科事典』ロシア・ヤウザ,エクスモ,ストラテギヤКМ刊 2009.
『RSB-F 無線局 1940年式・解説と説明書』: 1942.
『冬期の通信手段・使用説明書』: 1943.
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