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ZVEZDA ズベズダ【3690:SU-85 ソ連駆逐戦車】

何か久しぶりにキットレビューとか書いたら、やたら冗長な文になってしまった…。長ぇよ!まぁいつもですね。
以下の文章は要するに「ZVEZDAの SU-85は砲身が太いけどコレはそういうタイプで間違いじゃないから皆で作ろう!」…でまとまっちゃう話です(^^;)。

ZVEZDA【3690:SU-85 ソ連駆逐戦車は、ZVEZDAの新生 T-34シリーズ【3687:T-34/85】,【3688:SU-100】,【3689:T-34/76 1943 UZTM】に続くバリエーション第四弾。

総じて良く出来たキットであり、過去に発売された各社の T-34系キットと比べても考証的・ディテール的に進歩している部分は多い。一方で「ここはあまり従来と変わらないなー」と感じる部分もまたチラリホラリと散見される。
トータルでは充分に「現在のキット」になっているのだが、部分的な印象は旧キットっぽく、そういう意味では「ZVEZDAの旧版 T-34シリーズの正統進化形」という捉え方が一番しっくり来そう。グローバルよりもドメスティック指向というか。ちょっと不思議な感覚のキット。

以下キットの特徴や気付いた点など。

○ 「車体下部側面&サスペンションを中心としたパーツ」及び「履帯パーツ」は他の T-34シリーズと共通で、その他の部分は新規起こし。(追記:転輪パーツも【3689:T-34/76 1943 UZTM】と共通の模様)
○ 車体下部はいわゆる「箱組み」で、これにより戦車型と自走砲型で異なる車体底面のディテールの違いが再現されており、良。
○ 車体上面パーツは戦闘室天板が最初から一体になった表現。今後バリエーションとして SU-122を出すかどうかはここからは窺い知れない。
○ インテリア類は皆無。戦闘室天板のハッチが大きいので主砲砲尾部くらいは欲しいような気もするが、まぁ無ければ無いでいっそ清々しくもある。
○ 戦闘室前面パーツには防盾基部が装着状態でモールドされている。前作の SU-100も同様の処理で、組み上がると特に問題はないのだが、ディテールを整えたい場合などにはやはり別パーツにしてくれた方がありがたかった気も。
○ 戦闘室側面パーツの後端は装甲板が組み接ぎになったタイプで、これは1944年に入り3月頃までに導入された特徴。ちなみに、Miniartの SU-85シリーズで実車の生産時期的に一番新しいタイプは【35204:SU-85 SOVIET SELF-PROPELLED GUN MOD.1944 EARLY PRODUCTION. INTERIOR KIT】だが、ZVEZDAの SU-85はこれよりも更に後の生産タイプであり、両社製品に仕様の被りは無い。
○ 転輪はディッシュタイプで、ゴム部に穴のみのタイプが6転輪分,穴&接地部に溝のタイプが4転輪分。穴の凹がやや浅めの表現なので、ピンバイスで深くしてやると良いかも。
○ 車体後部、ミッション上部カバーのメッシュはナイロン(?)製のものが付属している。メッシュ自体は目の細かなものだが、一段奥まって装着されてしまうので、ここは他社の別売エッチングに置き換えた方が楽でリアルかも。
○ 車体後面装甲板に【BDSh(煙幕缶)】用の装着部&配管は無し。SU-85はかなり後期の車両でも BDShの装着が見られないので、これは適切。
○ 車体後面装甲板に【戦車ペチカ(冬期のエンジン暖め用ストーブ)】装着部付き。戦車ペチカは冬期には装着車が散見されるので、これも適切。装着部のネジ穴はモールドされていないので、戦車ペチカ本体を装着させない場合には先端に0.3mm程度の小穴を開けると良い。ちなみに穴はズレても気にしない。実車もズレてたりするよ!

Kibu2


○ なお、【戦車ペチカ】の横から出ているパイプ(煙突パイプ)は穴を広げて薄くすると実感が出る。実物は本体・煙突共に厚さ1.5mmの鉄板製。
○ 車長観測塔の上につく PTKペリスコープは、装甲カバーの中に透明パーツの PTK対物部を仕込むようになっており、これはトキメキ☆ポイント。
○ 履帯は部分連結式。ランナーが組立治具になっているのが面白い。マジトラとか組むのにも使えそう?
○ 付属デカールは【☆843☆ ドイツの侵略者へ死を!(Смерть немецким оккупантам!)】と【ソ連の探鉱者(Советский старатель)】の2種類。

ZVEZDAの SU-85は、後期生産の【SU-85A

度々書いて来てまた繰り返しになるが、今回 ZVEZDAから発売された SU-85は、勿論 SU-85で間違い無いのだが、厳密に区分するならば、1944年2月からリリースされたSU-85Aと呼ばれるタイプを再現している。このSU-85Aのキット化は、あらゆるスケールを通じて今回が初だと思う。

SU-85は 1943年8月から、ウラル重機械製造工場(UZTM)にて生産が開始された。
主砲は当初 85mm戦車砲 D-5S(D-5Tの自走砲搭載型)であったが、1944年初頭に砲のモディファイと生産数増のため、新たにD-5S-85Aというタイプが採用される。
「D-5S-85A」は85mm高射砲1939年型・52-K後期型の砲身をベースにしており、外見上の特徴としては、肉厚のモノブロック(一体)砲身を持ち、「D-5S」に比べて砲身中程から根元にかけての太さが急に増している。またそれに伴い、防盾と接する部分の形状も異なっていた。
「D-5S」と「D-5S-85A」ではその基本性能に大差はなかったが、砲身が肉厚のため、重量は「D-5S-85A」の方が140kg程重くなっている。
当初は並行して製造されていたものの、両者の部品互換性が限定的であることから、生産の混乱を回避するために、やがて「D-5S」の生産は中止され「D-5S-85A」に一本化された。

そしてこのD-5S-85A」を搭載した SU-85は【SU-85Aと分類された。
(SU-76M車体ベースで D-5S-85Aを搭載した試作自走砲も【SU-85A(SU-15A)】と呼ばれたが、搭載砲が同じという以外に特に関連は無い)

モスクワ・中央軍事博物館に展示されている SU-85は、このSU-85Aで、1944年6月生産車とされる。なお ZVEZDAは開発に当たって当車両を取材したとのこと。
下写真は「D-5S」と「D-5S-85A」の防盾廻りでの比較。「D-5S-85A」の砲身が根元部分に向かって極端に太くなっているのが分かる。

D5s85a

SU-85Aは1944年2月から D-5S搭載のSU-85と並行して生産され始め、3月には79両(SU-85は112両),4月には175両(SU-85は25両)が工場を出た。
続く5月には、生産205両の全てがSU-85Aに切り替わった。以降、6月に210両,7月に210両,8月に210両と、8月までのトータルで1,000両以上のSU-85Aが生産されている。

SU-85(SU-85 + SU-85A)の総生産数は合計 2,334両なので、数的には SU-85全体の半数近くがSU-85Aだったということになり、事実、戦中に撮影された写真を見直してみるとSU-85Aの姿は思いのほか多い。1944年後半から終戦まではむしろSU-85Aの方がより一般的だったのではないだろうか。
「SU-85Aなんて馴染みの無いタイプよりも、普通の SU-85がいいよ…」と思う人も或いは居られるかもしれないが、そんなわけなので安心して(?)作るが吉かと。

なお、現段階では「D-5S-85A」の1/35・別売り金属製砲身等は何処からも出ていない。
今後は発売される可能性もあるが、金属砲身メーカーがこの「D-5S-85A」という形式を把握していない場合、既発売のD-5S(D-5T)をZVEZDAキット用として安直に提供して来る可能性もある。
モデラーが D-5S(D-5T)を ZVEZDAキットに使用した場合、その車両はSU-85Aでは無く、1944年2月〜4月生産の SU-85になってしまうという事は(当ブログの性格的には)注意しておきたいポイントだろう。

ちなみに ZVEZDAキット付属のデカール2種は、写真で元車両を確認したところ、いずれもちゃんとSU-85Aだった。

85a_mark

 

■ ついでに【SU-85M】について

SU-85Aの生産は1944年8月で一区切りを迎え、その後の1944年9月から11月までの間には、SU-85Mが315両生産された。これは【SU-100】と同仕様の車体に「D-5S-85A」を搭載したもの。
上の方に書いたように「D-5S」の生産は1944年の春には終了し、以降の生産は「D-5S-85A」に切り替わった。よってSU-85Mの搭載砲は「D-5S」ではなく「D-5S-85A」という事になる。写真を見ても砲身のシェイプは「D-5S-85A」の特徴的なものだ。

Su85m

今後1/35でSU-85Mを作る場合にはこれも(当ブログの性格的には)留意したいポイント。
現時点でベストな組み合わせは、ZVEZDA【3688:SU-100】に、砲身は当キットから流用し、防盾を自作して合わせる…という方法かな。

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◎ 参考資料及び画像出典

『国内の装甲車両・20世紀 第1巻 1905-1941』: Экспринт, 2002.
『SU-85自走砲』ヴァエンナヤ・レトピシィ「装甲博物館」シリーズ #18, 2002.
『Долгожданный истребитель・待望の駆逐車』https://warspot.ru/11413-dolgozhdannyy-istrebitel

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